三重大学「メタバース有造館」で、高校生のチャレンジを応援するセミナーを開催

2023-10-27
利用組織名

三重大学高校生・受験生応援サイト(公式サイト:https://www.mie-u.ac.jp/admission/index.html

取材対象者
宮下伊吉 准教授
利用人数
10~20名
企業・イベント概要

三重大学「メタバース有造館」(仮想空間)は、新たな時代の変化(Society5.0といわれている仮想空間とリアル空間が融合した世界)を捉え、未来を拓く、イノベーション精神あふれる若者のチャレンジ(探究活動、地域貢献活動など、高大接続に関わる学び)を応援する学びと交流の場として開設します。プレリリースしました2023年度は、高校生対象の三重大学高大連携の「学問探究セミナー」の27企画のうち、2企画でoviceを活用した「メタバース有造館」を利用したセミナーを開催しました。

活用のポイント
  • 3階建てのメタバースoviceを活用した高校生のチャレンジを応援するセミナーを開催、高校生×大学生×地域で楽しみながら学びを共有できる空間に
  • oviceEventの「総合司会」も活用

「メタバース有造館」(仮想空間)の由来は、1820年開学の藤堂藩の藩校(三重大学の前身)であった有造館です。有造館で学んだ当時の若者は、文武教育のみならず、数学・天文学・化学・医学などを組み込んだ総合型の教育(現代の文系・理系の枠を超えた、実践型の教育)を受け、幕末から明治への新たな時代を拓いてきました。

oviceを活用した「メタバース有造館」を利用した2つのセミナー「イノベーション・チャレンジ~メタバースで聖地巡礼をプロデュース!~」「アバターになってスティーブ・ジョブズのように考えよう!」について、その活動の狙いと、oviceを選んだ理由や感想をおうかがいしました。

「学問探究セミナー」でoviceを活用した2つのセミナーを開催

ー三重大学で行われている「学問探究セミナー」について教えてください。

「学問探究セミナー」は、三重県内の高校生を対象に大学の学びを体験できる機会として、毎年夏に開催してきた高大連携「サマーセミナー」を発展させたものです。三重県外の高校生もオンラインで参加でき、2023年度より、新たに高校で実施されている探究的な活動(自分で課題を設定し、解決策を考え、提案する等)にもつながる企画も追加しました。

2023年度に追加した企画は、oviceの「メタバース有造館」を利用した2つのセミナー「イノベーション・チャレンジ~メタバースで聖地巡礼をプロデュース!~」「アバターになってスティーブ・ジョブズのように考えよう!」です。それぞれ8月10日、24日に開催しています。

初めて会う高校生同士で、社会問題を広く深く考える機会を提供することを狙いとしました。

イベント体験ではなく、参加者にとって探究的な学びにチャレンジする活動とするべく、テーマ設定、運営、事前課題の設定や事前事後の交流会の実施等を行いました。特に運営では、初対面の高校生同士でも話しやすい環境、進行を実現するために、三重大学の大学生に2つのセミナーのファシリテーションを担当してもらいました。

さらに新たな試みとして、2つのセミナー受講者以外の高校生や大学生、地域の方々にも、当日の受講者の発表の様子を見学することも可能としました。

受講者にはoviceの「メタバース有造館」に入室してもらいましたが、見学者には、oviceでの受講者の発表の様子を別のメタバースであるmetaverse cloudに投影された状態で見学してもらいました。metaverse cloudは株式会社FIXERという三重県四日市市に事業所のある企業が提供しているサービスです。

▲見学者がアクセスしたメタバースの様子

ーoviceの様子をまた別のメタバースに投影するのはすごく面白い取り組みですね! 開催前には、oviceの使い方に慣れていただくための事前交流の機会を設定されたと聞きました。

はい。7月26日、2つのセミナーの受講者を対象にオンラインで、事前にoviceの「メタバース有造館」にアクセスしてもらいました。

oviceの操作確認と「メタバース有造館」内に設置した事前課題への取り組み方の説明を受けてもらうとともに、事前交流会(クイズ大会)を行いました。

クイズの内容はoVice社のイベント担当者に用意いただいた「方言クイズ」でとても盛り上がり、oviceの操作に慣れてもらいました。初めて参加する受講者の高校生とセミナー当日のファシリテーターである大学生もアバターで同じoviceの「メタバース有造館」に入室し、お互いの距離を近づけることにつながりました。

▲事前交流会(クイズ大会)

ー2つのセミナーの内容について教えてください。

「イノベーション・チャレンジ~メタバースで聖地巡礼をプロデュース!~」は、地域の協力者として、三重県菰野町コミュニティ振興課と菰野町在住の漫画家服部 千里氏の協力を得て実現したセミナーです。

このセミナーを受講する高校生には、「メタバース有造館」内に設置した事前課題の説明と、2023年3月に発刊されたマンガ『八重姫伝』をまず読んでもらいました。このマンガは三重県菰野町が地元の偉人(菰野藩初代藩主の奥方で織田信長の孫娘の八重姫)の漫画化事業に公募された服部氏に依頼し出版されたものです。

セミナー当日は、ファシリテーター役の大学生がサポートしながら「メタバース有造館」内で受講者全員が協力して課題に取り組みました。

菰野町の魅力をどう世の中にアピールしていくことができるかを考え、菰野町コミュニティ振興課の方に実際に地域活性化の提案をプレゼンテーションしてもらう、というゴールを設定しました。同日はマンガ原作者の服部氏にも参加いただきました。

高校生が協力してまとめた提案については、地域の協力者である菰野町コミュニティ振興課の方とマンガ原作者服部氏、そしてゲストとして三重県立飯南高等学校長からも高校生の提案にコメントしていただきました。

菰野町からは、すぐにでも採用を検討したい実現可能性のある内容だったと高い評価を得られ、また飯南高等学校長からは教育におけるメタバースの活用の可能性について言及いただきました。

▲「イノベーション・チャレンジ~メタバースで聖地巡礼をプロデュース!~」(8月10日開催)のクイズ大会の様子

「アバターになってスティーブ・ジョブズのように考えよう!」では、生成AIを活用した新規事業創出に多数の実績を持つNTTドコモの新規事業プロデューサー小栗 伸氏の協力を得て開催しました。

『生成AIを使って身近な問題解決を考えてみよう』という事前課題を、「メタバース有造館」内に動画とオンライン掲示板への投稿の形であらかじめ掲載し、高校生に取り組んでもらいました。

セミナー当日は、ovice「メタバース有造館」内で小栗氏に解説してもらったあと、受講者の高校生とファシリテーター役の大学生も一緒になって、新規事業創出につながるようなアイデアを考案できるかを話し合いました。そして一人ずつ自分の考えをまとめ、高校生も大学生にも発表してもらいました。

それぞれの発表については、小栗氏とともに、地域の協力者として参加いただいた三重県教育委員会教育総務課ICT班の方からもコメントをいただきました。

コメントでは、生成AIという非常に可能性のある技術について、高校生が柔軟な発想でアイデアを出していたことに高い評価をいただきました。

また、私が特に印象に残ったと感じた点は、生成AIを活用する上での問題点(倫理的な問題)についても高校生、大学生それぞれが相手の意見をしっかりと受けとめながら自分の考えを発言できていた点です。

▲「アバターになってスティーブ・ジョブズのように考えよう!」(8月24日開催)発表の様子

ーoviceでのセミナーの進行について教えてください

2つのセミナーを受講する高校生は、対面参加(三重県内の高校生のみ)とオンライン参加(全国の高校生参加)が可能とし、オンライン参加の場合は、自宅などからoviceの「メタバース有造館」にアクセスしていただきました。

対面参加者も、ファシリテーター役の大学生も含め、参加高校生それぞれがoviceにアクセスします。

また、8月10日のセミナーでは地域の協力者(菰野町コミュニティ振興課、菰野町在住漫画家)、8月24日のセミナーでは講師の小栗氏と地域の協力者(三重県教育委員会)の方々も、アバターでoviceの「メタバース有造館」にアクセスしてもらいました。

oviceの「メタバース有造館」は3階建てとなっており、「メタバース有造館」の2階にある教室で主に受講します。

▲「メタバース有造館」の2階にある教室。

1階は交流広場となっており、クイズ大会で利用します。3階は、事前課題で取り組んだ高校生の内容や8月10日のセミナーの提案スライド、私の授業で大学生が取り組んだ菰野町への提案スライドなど、学びの成果をクイズに参加して楽しみながら共有できるようにしています。

2つのセミナーとも、約2時間半の講座の終了後に交流会を開催しました。8月10日は1階、8月24日は3階を利用しています。

8月10日の交流会では、マンガ『八重姫伝』にまつわるクイズをあらかじめ私の授業を受けた大学生に考えてもらったものを出題しました。8月24日の交流会では、セミナーのタイトルにある「スティーブ・ジョブズ」に関するクイズを私が出題して皆さんに楽しんでいただきました。

8月24日の交流会のクイズは、「メタバース有造館」3階の会場にGoogleスライドを使って20の立て看板を設置し、アバターを動かして自分で選んで確認しながら4つのクイズに回答することによって、隠されたキーワードを当てるという、かなり凝った仕掛けとしました。

立て看板はスライドをめくることで、「クイズ」「資料(高校生または大学生の提案スライド)」「はずれ」のいずれかが確認できる仕様です。

▲「クイズ」が設定されているスライド

クイズに全て正解することでキーワードが完成し、順位が決定されます。「資料」「はずれ」にあたってしまうとキーワードが集まらなかったり、クイズもなかなか難しい内容が設定されていたりで、大変盛り上がりました。

ovice選択の理由と工夫 oviceEventの「総合司会」も活用

ーオンラインコミュニケーションのためのプラットフォームが数ある中で、今回oviceをお選びいただいた理由は何だったのでしょうか。

oviceの平面(2D)のメタバースを体験してみて、人との距離感が見える、全体が見えるという点が動きやすさにつながっていると思います。

メタバースというと、主にエンターテーメントの場面やオンラインゲームなどでVRゴーグルを装着した3Dの仮想空間体験というイメージが強いですが、実際にVRゴーグルを使って3Dタイプのメタバース内でアバター(自分の分身)をスムーズに動かすには、高価な機器類や常時操作可能な通信環境等が必要なため、高校生や大学生の誰もがすぐに利用できるというわけにはいきません。

その点、oviceはPCのスペックにほとんど左右されない点ですとか、見慣れた平面のオンラインゲームのUIに似ている点など、oviceなら使うハードルが低いと感じました。

また、すでに三重県教育委員会が不登校生支援事業にoviceを活用していたことも大きな理由です。2023年1月と3月に三重県教育委員会に訪問し、実際の不登校生支援事業でのoviceの活用状況をヒアリングさせていただきました。

そして、日本のサービスという点も大きなポイントでした。海外のサービスも実際にいくつか登録しましたが、高校生がスムーズに利用できるかどうかという観点などから、登録手続き面やサポート面に不安を感じたため、選択肢から海外のサービスは外れました。

ー開催にあたってどんな不安がありましたか? また解決策として、今回どのような対策をとられたのでしょうか。

oviceの「メタバース有造館」での今回の2つのセミナーを受講する高校生に、あらかじめアンケートで確認したことろ、メタバースという言葉は知っているが、実際にメタバースを使ったことがある高校生はとても限られていると感じました。

コロナ禍の影響により、ZoomやMeetなどのWeb会議ツールを使ったオンラインでのセミナーや授業を経験している高校生・大学生は増えましたが、メタバースの活用はテレワークなどを推進する企業が主であり、教育現場での活用事例が少なかったのです。特にメタバースを活用したディスカッションに受講者が主体的に取り組んでもらうためにどのようすればよいかなどは手探り状態でした。

三重県教育委員会でのヒアリングと、oViceの担当者への相談から、メタバースの操作に慣れてもらい、メタバース内で動き回り、楽しんでもらうことがポイントになると考えました。

具体的には、セミナー実施前と実施後に設定することにしました。それが、oviceの「メタバース有造館」における事前交流会での接続確認、操作説明、事前課題への取り組みと交流会(クイズ大会)の実施と、セミナー終了後の交流会(クイズ大会)の実施でした。

特にセミナー終了後の事後の交流会では、セミナーの内容に関連したクイズを出題するように工夫しました。

oVice社には、メタバースの操作解説をはじめ、クイズなどメタバース内での交流のノウハウがあり、総合司会のサービスもあります。今回の2つのセミナー全体の司会をoVice社に担当いただき、ディカッションについては三重大学の大学生をファシリテーター役としました。

ーoVice社の司会を使ってみていかがでしたか。

全体の進行を依頼したoVice社の担当者とは、事前に複数回の打ち合わせした上で、7月26日の事前交流会と8月10日のセミナーについては総合司会をお願いしました。

8月24日のセミナーについては、総合司会は私が担当し、最初の操作説明と進行中のサポートと最後の交流(クイズ大会)の進行をお願いしました。

いずれも的確な場面でサポートしていただいたことで、セミナー当日、私はメタバースを活用したディスカッションの状況の把握に注力することができました。

ovice「メタバース有造館」での2つのセミナーを実施し、さらにそのセミナーでの受講者の発表の様子を別のメタバース参加の見学者に見てもらうという前例のない試みにチャレンジすることができたのは、事前に複数回の打ち合わせでセミナーの方向性をoVice社の担当者に十分ご理解いただいたことが大きいと受け止めています。

ー事前の交流会とセミナー当日の終了後の交流については、どのような印象を持たれましたか?

2つのセミナーを企画した当初は、「メタバースに慣れてもらうための交流(クイズ大会)」「セミナー終了後にも交流(クイズ大会)の機会を設定」という発想がなかったので、oVice社の担当者からそのような提案をいただき、本当に助かりました。

参加者に実際にoviceにアクセスしてもらい、交流してもらうと、高校生も大学生もovice「メタバース有造館」で動き回って、リアクションボタンもしっかり活用していて、非言語のコミュニケーションに長けているという印象を持ちました。

高校生×大学生×地域で楽しみながら学びを共有できる空間に

ー最後に、今後oviceを活用してやってみたいことや構想を教えてください。

今後はまず、ovice「メタバース有造館」で開催するセミナーを増やしたいです。

さらに、セミナー時のみ開館するのではなく「メタバース有造館」を常時オープンにして、高校生と大学生、またそれ以外の方々(地域の方々など)との多様な学びの交流の場を実現していきたいと考えています。

今回のセミナーでコメントいただいた地域の協力者からは、oviceは顔を出したりしゃべったりするのが苦手という人にとって参加ハードルの低い場でもあり、そういう人も活発に交流できる、楽しみながら学べる可能性もあるだろう、というご意見もいただいております。

社会の課題について関心を持ち多様な人の意見や考えを取り入れながら提案をまとめること、その成果を楽しみながら高校生×大学生×地域で共有すること、そうしたことのできる「メタバース有造館」を目指しています。仮想空間とリアル空間の融合という形で、高校生の探究的な学びへのチャレンジを応援、実現していきたいです。

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