不登校の子どもも安心して通える通信制サポート校をoviceで実現。全11キャンパスの生徒を1か所に集め、一緒に学べる場づくりを。

2025-01-29
利用組織名

株式会社ベネッセコーポレーション(公式サイト:https://www.benesse.co.jp/、Be高等学院:https://gakuin.benesse.co.jp/)

取材対象者
Be高等学院 学院長 上木原孝伸さま、同通信制サポート校設立準備室 広報課 竹内隆介さま
利用人数
企業・イベント概要

株式会社ベネッセコーポレーションは、「進研ゼミ」「進研模試」等の教育サービスを提供しており、0歳から100歳までの全ライフステージをターゲットとして「よく生きる」ための課題解決を行うベネッセグループにて、教育・生活領域を担当している。2025年4月より通信制サポート校「Be高等学院」を設立し、一人ひとりの「自分らしい」進路を見つけ、目標をかなえる学力を伸ばす個別サポートを提供する。

活用のポイント
  • Be高等学院の関東と関西にある計11キャンパスの生徒を、oviceでは一か所に集約。みんなで一緒に学べる場を作る。
  • オンラインスタイルの子も通学スタイルの子も、全員がoviceにアクセスすることで、仲間の存在を感じながら勉強できる環境に。
  • 互いにカメラをオフにすることで、子どもたちが本音で話せるように。アバターを通じた交流で、心理的安全性の高い環境が実現。
  • oviceを活用することで、キャンパスを超えた教員同士の交流も容易に。ノウハウも横展開しやすくなる。
  • 保護者からも、全国の友達と交流しやすく、アバターで手軽に会話できる環境にポジティブな声。

生涯にわたる学びをサポートすることをミッションとし、通信教育の「進研ゼミ」をはじめさまざまな学習の支援を行ってきたベネッセ。そんなベネッセの新たな取り組みとして、2025年4月に不登校経験のある子どもたちも安心して通える通信制サポート校「Be高等学院」を開校します。

今回は、上木原さまと竹内さまに、Be高等学院設立の背景や具体的な取り組み内容、oviceを活用したバーチャルキャンパスの内容やそれにより実現したいことなどを伺いました。

不登校を解決するのではなく、その理由を掘り下げて教育の機会を提供したい

ー 改めて、御社の事業内容と役割についてお聞かせください。また、そのなかでBe高等学院の設立に至った経緯なども教えてください。

上木原さま:ベネッセという社名は「bene(よく)」と「esse(生きる)」を組み合わせた単語で、生涯にわたる学びをサポートしています。今回のBe高等学院プロジェクトと同じ領域ですと、通信教育の「進研ゼミ」や、学校の先生の困りごとをサポートする事業である「学校カンパニー」などがあります。

進研ゼミを55年間続けてきたことで、遠隔で生徒のやる気を引き出すためのノウハウが蓄積されてきたこと。また、進研模試や進路情報を学校に提供してきており、子どもたちの進路選択に関しても一定のノウハウを持っているため、「本質的な」進路指導ができると考えたことから、Be高等学院の設立を決めました。

Be高等学院は通信制高校ではなく「通信制サポート校」です。あくまでも通信制高校に通う生徒を「サポートする」学びの場という立ち位置にすることで、今までベネッセとして行ってきた「学校をサポートする」というノウハウを活かしていけると考えています。

ー 不登校に関して、御社としてはどのように対応していきたいと考えていますか。

上木原さま:よく不登校を「解決する」という言い方をされますが、解決すべき事象は不登校そのものではないと考えています。また、あまり知られていませんが、実は文部科学省も「不登校は問題行動ではない」と言っています。実際に不登校になりながらも、さまざまな方法で学びを継続し、個性を開花させて未来を切り開いた子もいます。

もちろん、再登校できるという道ができるに越したことはありませんが、不登校自体を問題にしてしまうと、登校を強制したり、学校は行くべきものという価値観を一方的に押し付けてしまい、子どもたちが立ち直れなくなるような深い心の傷を与えてしまいかねません。そのため、不登校を解決することを目標にするのではなく、あくまでも不登校になった理由を深掘りし、その解決を目指すことで、社会的自立を目指せるような環境を作っていきたいと考えています。

Be高等学院の11キャンパスの生徒をoviceに集め、みんなで一緒に学べる場を作る

ー Be高等学院でoviceを導入した経緯を改めて教えてください。

上木原さま:不登校経験を持つ子たちも安心して通える学びの「場」を作りたいと考えており、そのためにはメタバースを活用するのが良いのではないかと感じていました。

新たなデバイスの購入が必要なく、強いネットワークがない場合でも使えるため2Dのものが良いと考えていました。oviceは学校プランも提供していたこともあり、スムーズに検討が進み、導入が決まりました。

ー oviceを活用してBe高等学院を運営する上で、工夫されたことはありますか。

上木原さま:初めは関東と関西にある11キャンパスのそれぞれのoviceビルを建てるという構想がありましたが、あえていくつかにまとめることにしました。毎日Be高等学院に来る生徒ばかりではないため、キャンパスによっては開校初年度は人数が少ないところもあると思います。人数が少なく、さみしい雰囲気になってしまうよりは、初めはできる限り同じ場所に集めてみんなで盛り上がっている雰囲気にしつつ、どの先生がどこにいるのかがわかるようにすることで、質問しやすい状態を作れるようにしました。ビル内には自習スペースやイベント用スペースも設けており、みんなで集まってワイワイできるようにもなっています。

また、担任間でやり取りできる職員室スペースや、保護者向けのガイダンスができる外部用のスペースを作るなど、さまざまな設計を考えているところです。

ー Be高等学院のoviceビルの詳しい構成を教えてください。

上木原さま:Be高等学院にはさまざまなフロアがありますが、アクセスしたらまず休憩・雑談用のスペースで友達と話せるようになっています。そのあとホームルーム用のoviceスペースに行き、進路の話やレポートの話など、より具体的な学習に関する話ができるようになっています。一限目になったら学習用のスペースに移動し、そこで勉強しつつ、先生はアバターでうろうろして生徒の様子を見て回ったり、生徒から質問があったら質問ルームに移動するなどしてコミュニケーションを取れるようにしています。

ー oviceを活用したBe高等学院を企画するなかで、苦労したポイントはありますか。もしあれば、どのように乗り越えたかも教えてください。

上木原さま:苦労したことはほとんどありませんでしたが、唯一挙げるとすれば契約するアカウント数に関しては社内での調整が必要でした。Be高等学院は通学スタイルとオンラインスタイルの2つがあり、オンラインスタイルの子は、現在の出願状況では全体の4割で、本来契約するアカウント数はオンラインスタイルを選んだ子どもたちの数だけで良いはずです。

ただ、私たちが目指したい世界はそうではなく、「学院」をovice上に作り、仲間と一緒に学ぶ空間を実現することだったため、その点をきちんと説明しつつ、通学スタイルとオンラインスタイルの子全員のアカウントを発行できるように社内で調整しました。

ー Be高等学院を運営するうえで、oviceはどのような役割を果たしていますか。

上木原さま:oviceは非常に重要であり大切なものだと考えています。なぜなら、オンラインで学ぶ子どもたちのセーフティーネットとしてだけではなく、きちんと「学院」として活用することができるからです。

不登校によって、学習機会が確保できない、人との交流が減少してしまうといった問題が発生します。調査では74.2%の子どもが勉強に対する不安を感じているということが分かっています。特に積み上げ型の学習である英語や数学などが理解ができなくなってしまうという不安感が大きいようです。

また、ともに青春を過ごす仲間がいないのは子どもたちにとってつらいことで、自分が抱えている悩みに対して、温かく寄り添ってくれるような大人や仲間の存在が必要です。実際、不登校の時に良き理解者がいた子どもは、不登校の経験が社会に出てから生きたと感じているというデータもあります。

oviceを活用することで、学習の機会やさまざまな人と交流できる環境を提供できるため、こうした問題も解決できると考えています。

ー oviceにはどれくらいの生徒が通う予定でしょうか。

上木原さま:オンラインスタイルを選んだ子はもちろん、通学スタイルを選んだ子も基本的にはoviceにアクセスします。

また、通学スタイルの子にもoviceに入ってもらうことで、みんなで一緒にovice上で学んだり交流したりすることができ、仲間意識が持てるようになります。これにより、オンラインスタイルを選んでいる子どもが、外にでてより多くの人と交流してみたいと思えるようなきっかけになったり、通学スタイルに変更したりする可能性もあります。そうした意味でも、無理に通学キャンパスに通うことだけを正とするのではなく、あくまでもバーチャルキャンパスに行くことも正であるという形にしていきたいと考えています。

顔出しをしないことで、子どもたちが本音で話せる環境が実現

ー oviceを使ってみて、効果を感じたことはありますか。

上木原さま:これまでにカメラのオン/オフなど、さまざまな状況で会話するよう試してみましたが、色々試した結果両者がカメラをオフにして話した場合が一番子どもが本音を話しやすいということがわかりました。顔を出して話した方が打ち解けそうな感じがしますが、お互い顔を知らない方が気を遣わずに話せるというのは大きな学びでしたね。オンラインでも顔出しを強制するのではなく、心理的安全性の高い環境を作れることが、oviceの良さだと実感しました。 

竹内さま:こうしたアバターでの交流について広告でも配信しているのですが、「顔出しが難しい時はアバターで安心」という広告バナーに対して、100を超える「いいね」がついたことがありました。広告に対する反応は普通はあっても数件程度ですが、心理的安全性を重視されている方が多いことを改めて認識することができました。

ー ovice上で、特に実現してみたいことはありますか。

上木原さま:バーチャルキャンパスをベースにきちんと学院生活を楽しんでもらうことはもちろん、リアルな学校にも近づけるような設計や取り組みができればと考えています。例えば、体育館や桜の木をoviceのレイアウト上に作ってみたいです。

そこで誰かが告白をしたり、15年前に書いたメッセージを卒業生が読みに来たりといったことができたらおもしろいですね。ovice上に「学院」があり、そこに青春があるような形にしたいと考えています。

ー 2025年4月の開校以降、どのような取り組みをoviceで行う予定ですか。

上木原さま:ovice上で青春を実現するという計画の一環として、軽音楽部などのオンライン部活なども企画しています。

現時点では、それぞれが離れた場所からつないでセッションすると、どうしても音がずれてしまいますが、そうした問題を解決しつつ、ovice上でセッションしたり、そこで練習した成果をovice上の文化祭で披露できたらと思っています。

ー oviceを活用することで、運営側としても何かメリットはありましたか。

上木原さま:リアルのキャンパス運営はタコ壺化しやすく、例えばある校舎の運営がとてもよかったとしても、そのノウハウが横に伝わることはほとんどありません。しかしoviceを使うと、隣のキャンパスの動きが自然と目に入るため、生徒が生き生きとしているキャンパスの見学もすぐにでき、ノウハウを横展開することも簡単にできると感じます。

また、実際のキャンパスだと職員の異動は容易ではありませんが、oviceであれば東京の亀有キャンパスの職員がすぐに横浜キャンパスに行くということも簡単です。そのため、どこかのキャンパスで体調不良の職員が出ても、すぐに別のキャンパスの職員が応援にいけるというメリットもあるなと感じています。

ー Be高等学院をoviceで運営することに関して、社内や保護者の方からはどのような反応やコメントがありましたか。

竹内さま:社員のなかには、実際に子どもが通信制高校を利用したり検討している人も多いので、そうした方々にこのoviceを使った取り組みのことを紹介すると、とても良い取り組みだというポジティブな反応をもらうことが多かったです。 

また、現在Be高等学院に出願してくださった保護者の方々とオンラインや対面での面接も行っていますが、バーチャルキャンパスが魅力的に感じたという声が特に多いです。全国の友達と関われるところに良さを見出してくださる方もいれば、リアルでのコミュニケーションには不安があるものの、アバターだったら頑張れそうだという方もいます。

コロナ禍を経て、社会人であれば、ウェブ会議システムを使ってやり取りや面談をするのは当たり前になっています。そうしたデジタルツールに慣れながら、きちんと勉強できるという意味でも、ポジティブにとらえている方が多いと感じます。

学びを止めない環境の提供で、子どもたちの個性を未来につなぐような教育を創っていきたい

ー 御社の目指したい価値観に対して、oviceがどのように貢献できそうか教えていただけますでしょうか。

上木原さま:学びというのは、「どこで学ぶか」ではなく、「何を学ぶのか、何を学びたいのか」が重要であると感じています。

oviceという空間を学びの中心に置くことで、さまざまな障害を乗り越えることができます。例えば、病気などでどうしても家から出られない子どもが、疎外感を感じることなく仲間と一緒にoviceで学び、きちんと卒業をすることができます。そうした世界が実現できること自体が素敵なことだと感じています。

また、私自身こうしたインタビューを頻繁に受けることがありますが、回答の時のヒントになればと思い、以前子どもたちにオンラインとリアルの融合についてどう思うかを聞いたことがあります。その時に子どもたちから、なぜ大人はデジタルとアナログ、オンラインとリアルを分けたがるのかと聞き返されました。

それを聞いた瞬間にハッとしました。デジタルネイティブの子どもたちにとっては、オンラインもリアルも、どちらも「現実」なんです。例えば、LINE上で起こっていることは子どもたちにとっては「オンラインの世界」ではなく「現実世界」であり、一日の半分以上をデジタルのなかで過ごしている子どもたちにとっては、それが普通なのだと感じました。そして、子どもたちのそうした感覚の方が、「オンラインとリアル」と二項対立でとらえている大人の感覚よりも正しいのだろうなと感じました。

こうした経験から、oviceのような仕組みを使って、子どもたちにとっての「当たり前」を体現し、それを多くの人に知ってもらいたいと考えています。

ー oviceを使ったBe高等学院で、子どもたちにどのように過ごしてほしいと考えていますか。

上木原さま:デジタルを活用し、社会に出る前にたくさんの失敗を重ねてほしいと思っています。デジタルの世界は、例えばSNSの炎上のように、失敗すると取り返しのつかないことになってしまうこともあります。

そうした取り返しのつかない失敗をする前に、細かな失敗を重ねておくという意味でも、高校生の頃からoviceも含めたデジタルツールを活用して慣れていってほしいです。

oviceであれば、たとえ仲間ともめてしまったとしてもSNSのように炎上することなく、ovice上での会話などを通じてきちんと解決することができます。表情の見えないデジタルコミュニケーションに慣れ、気を付けるべきことを学ぶということを、oviceを活用したこのBe高等学院でたくさん経験してほしいです。

ー 最後に、Be高等学院を通じて実現したい世界を教えてください。

上木原さま:私たちは今の学校教育を否定する気は全くありません。むしろそれで順調にいっている子どもがほとんどなので、それ自体は良いと感じています。ただ、1人でも不登校で悩んでいる子どもがいるのであれば、その子を置き去りにすることなく、きちんと学習機会を提供していきたいと考えています。

教育においてのリーディングカンパニーであるベネッセとして、子どもたちの学びを止めない環境をつくり、それを提供すること。それにより、それぞれの子どもたちが持つかけがえのない個性を未来につなぐような教育を創り、それを当たり前の選択肢にしていけるよう努力していきたいです。

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